その12 心療内科的アプローチが必要となる慢性頭痛
〜2012年神経学会学術大会から〜
端詰勝敬
東邦大学心療内科
この講演は、昨年の頭痛学会の講演の発展版ですね。
薬物乱用頭痛MOHの50〜90%に、精神疾患を伴うことが知られている。うつ、不安障害、物質依存がTop3。
精神疾患がMOHに先行することも多く、片頭痛のある方が精神疾患を持っている場合、いかにMOHに進展させないかが鍵。なぜならひとたびMOHになると、完治は困難だから。
片頭痛があると、4〜6倍、大うつ病やパニック障害になりやすいという古典的データがある。ほかの慢性頭痛とは違う。逆に、うつの8〜9割が何らかの頭痛を訴えることも知られている。
したがって、片頭痛の患者さんを診るとき、倦怠感・食欲低下・不眠がないか問診することが大切。うつ病を示唆する症状だから。
問診が大変なら、アンケートをしてもいい。HADSがおすすめ。うつも不安障害もひっかけるし、痛みに点数が左右されることもないから。しかし、神経内科クリニックでいきなり精神疾患のアンケートをするのはどうだろう??
片頭痛がある人を追跡調査すると、ない人に比べ40%も新規うつ病発症が多かった。
たまに、自分の症状をびっしりまとめてくる方がいて、そのような場合は、間違いなく身体化障害だ。精神科に紹介を。
忙しい外来でも、筋弛緩法くらいは、患者さんに紹介しよう。ネットでもやり方はわかる。これの肩だけでもいいし、座ってやるのもOKだと思う。それなら仕事の合間でもできるから。実際私もちょくちょくしています。
MOHの治療、片頭痛の予防に使われるTCAトリプタノールは、副作用が必発。便秘・立ちくらみ・口渇が三大副作用。これは当院では、精神疾患のない方に片頭痛の予防で使う場合、意外と副作用が出にくい印象がある。むしろ重篤な副作用として、高齢の方に用いる場合、狭心症の有無の確認がより大切かと思う。神経内科でも30mg位まで増量してOKとの話。
SSRI(Jゾロなど)とトリプタンは併用注意となっているが、演者の経験では実際に問題を起こしたことはない。むしろ、SSRIは片頭痛に対するエビデンスに乏しいことが問題か。文献的にはSNRI(トレドミンなど)の方が痛みに対する効果があることになっているが、演者の経験では??とのこと。
精神科に紹介すべきポイントとしては、ラポールが取れない(取れなくて紹介できるだろうか?)、自殺企図がある、明らかにトラウマがある(PTSDなど想定か?)、妄想性障害がある、など一般論でした。
以下抄録から。
頭痛の慢性化の原因は多種多様であるが、臨床的に頻度が高いものとして、1)薬物乱用の存在、2)ストレスとの関連性、3)頭痛に影響を及ぼすcomorbidityの存在が挙げられる。心理的ストレスに関しては、発症因子や増悪因子として食事、睡眠障害などの因子よりも関与度は高く、片頭痛では対処様式として、消極的または未成熟なストレス対処行動をとりやすいことなどが知られている。片頭痛や緊張型頭痛と関連性の深いcomorbidityとして、以前は大うつ病やパニック障害が知られていたが、近年では恐怖症、薬物依存、全般性不安障害などの疾患も注目されてきている。
また、薬物乱用頭痛に対する見方も本人の性格上の問題という捉え方から、薬への依存症、不安との関連、さまざまな精神疾患との随伴という側面が検討されつつある。
心療内科における頭痛診療は、頭痛患者の身体的側面以外に心理的側面(性格傾向・人格傾向を含む)や社会的側面への評価がその第一歩。向精神薬の投与といった薬物療法の他、数年前からリラクセーション外来を開設し、バイオフィードバック療法・筋弛緩法・自律訓練法などの非薬物療法を積極的に実践している。特に筋弛緩法は頭痛体操と類似しており、頭痛患者への適応範囲は広いと考える。